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LIVE REPORT

舞台版「銀英伝」ついにフィナーレ!
「銀河英雄伝説 第四章 後篇 激突」舞台リポート!!

 遂に、この時が来てしまった――。

 1982年の発刊以来、累計1500万部を売り上げた田中芳樹の大ベストセラー小説「銀河英雄伝説」。宇宙を舞台に二大国家が覇権を争うという設定からして、とても実写化は不可能と言われてきたスペースオペラは、最新鋭の映像技術や斬新な演出手法によって2011年1月、青山劇場にて舞台化された。以降、外伝も交えながら原作の物語をつぶさに辿り続ける中で、河村隆一のヤン・ウェンリー、間宮祥太朗のラインハルト・フォン・ローエングラム、貴水博之のパウル・フォン・オーベルシュタイン、中川晃教のオリビエ・ポプラン等、数々の当たり役キャストを輩出。その舞台「銀河英雄伝説」シリーズが、今回の第10作目「第四章 後篇 激突」をもって、ひとまずのフィナーレを迎えるというのだ。

 大人気シリーズの最終章だけに、今作ではそれらの主要メンバーが集結。また、Kis-My-Ft 2の横尾渉と二階堂高嗣も1年ぶりにキャスト復活し、noon boyzの真田佑馬に野澤祐樹と新たな面々も加わった。さらに、演出を手掛けるのは「月はどっちに出ている」等で知られる映画監督・崔洋一。結果、銀河でのダイナミックな艦隊戦を背景としながらも、それぞれに異なる“正義”を掲げる人々のすれ違いと邂逅、そして別れにフォーカスが当てられ、これまで以上に現代人とも通じるところの多い群像劇/人間ドラマに仕上がった。

 物語は前作「第四章 前篇 激突前夜」から引き続く形でスタート。銀河帝国の幼帝が、何者かの手により自由惑星同盟へと亡命したのを口実に、帝国元帥ラインハルトは同盟への大攻勢をかけ、同盟軍の名将ヤンとの直接対決を果たす――というのが大きなあらすじである。

 開演の鐘の音で幕が上がると、開戦の決意を秘書であるヒルダ(中山由香)に語るラインハルトの姿が。「私は全宇宙唯一の覇者として立ち止まるわけにはいかない」と言い放つ口ぶりは傲岸不遜にして王者としての風格に溢れているが、その裏には親友のジークフリード・キルヒアイスを自らの失態により失った呵責の念と、頼る者を亡くした孤独から逃れようとする心がある。そういった彼の“人間らしさ”は本作でも大きくクローズアップされ、自らを慕う少年エミール(HARUNA/SCANDAL)にキルヒアイスの面影を見出したり、病の中、自らが奪い続けてきた無数の命への慚愧の念に堪え切れずヒルダと一夜を共にする場面も。遂には敗戦を目前にした絶体絶命の苦しい息の中、キルヒアイスの幻影(福山翔大)に救いを求める様には、追い詰められた彼の心情が滲んでいた。そんな王者が故の脆さを、原作のラインハルトとほぼ同年齢である間宮祥太朗は、若さと自信と計算をフル稼働して演じ切り、まさにラインハルトの現身に相応しい。
 


 その孤独を糧に、ラインハルトに宇宙を統治させようとする参謀オーベルシュタインのゾッとするような冷たさ、そして幕僚たちを冷静に見渡す分析眼を、貴水博之は今回も抑揚抑えた語り口と静かな動きで小気味よく怪演。そんな彼を快く思わないラインハルト陣営の提督たちは、二階堂高嗣演じるミッターマイヤー曰く「忠誠心で固く結ばれている」はずが、彼の親友にしてミッターマイヤーと共に“帝国軍の双璧”と称される智将ロイエンタール(平田裕一郎)の心中には、忠誠心とは別の物が芽生え始めていた。一枚岩であったはずの双璧の間に生まれた僅かな綻び――。それを必死で繋ぎ止めようとするミッターマイヤーの焦燥と親友への想いを、二階堂は真っ直ぐに熱演。中でも、彼の不安を察して「私の過ちを繰り返すな。大切なものほど失うときは呆気ない」と切なげにキルヒアイスの遺髪を収めたペンダントを握り締めたり、出陣するミッターマイヤーをグッと抱き寄せて激励したりと、ミッターマイヤーに自らを重ねるラインハルトとの芝居は、観る者の胸を引き絞った。忠誠と反逆と煽動――ラインハルトを中心に交錯する人間模様とそれぞれの心理が、モノローグ等によって丹念に描かれていたのは、本公演の大きな特徴だろう。

 対する同盟側は、主人公のヤンが二日酔いのボサボサ頭で登場し、副官フレデリカ(はねゆり)に淡い恋心を部下たちが揶揄するという、厳格な帝国軍とはあまりにも対照的ムードで描写。しかし、頼りない風貌とは裏腹に、皇帝亡命について冴えた見解を述べるヤンは、さすが不敗の魔術師と謳われるだけはある。そんな人間的凡庸さと天才的な鋭さを、原作の大ファンであり4度目のヤン役となる河村隆一は、穏やかな所作や言い回しの中にもハッとするような明晰さを滲ませて巧みに表現。その姿は「銀英伝」ファンの頭に浮かぶヤン像と完全に一致し、もはや3次元でヤン・ウェンリーを演じられるのは彼しかいないのでは?とまで思わせるほどだ。
 第二幕にいたり、ようやくフレデリカに求婚するシーンでもヤンらしく、たどたどしい口調で奥手と機微への疎さを全開に。が、YESの返答を貰って幸せな笑顔を浮かべる二人の姿は、帝国の二人と恐ろしいほどの対比を為して、ラインハルトの孤独を際立たせる結果に。こうした様々な対比、いわば“陰と陽”が仕込まれているのも、「銀河英雄伝説」という物語の醍醐味である。

 一方で同盟軍のムードメーカーとも言える撃墜王ポプランに4度挑むこととなった中川晃教は、その陽気なキャラクターを完全に持ち役とし、今回も登場するだけで場を華やかに。それだけに、コンビを組んでいたコーネフ(中村誠治郎)を戦闘の最中で喪ったときには、悲しみと怒りと驚きと、全てがない交ぜになったやり場の無い想いを絶唱して、場内の涙を振り絞った。同じく4度コーネフを演じ続けてきた中村が、どこか悟ったような淡々とした物腰でコーネフというキャラクターを自分のものとして、中川と息の合ったやり取りを繰り広げていただけに、その悲しみは倍増。コーネフが最後に解いたクロスワードの回答が“戦友は一心同体”というのも、なんとも泣かせる。

 歌手でもある中川が、その歌唱力を如何なく発揮したのを筆頭に、キャストそれぞれの特技が作中に散りばめられていたのも今回の見所。例えば、殺陣を得意とする山口馬木也のシェーンコップと平田ロイエンタールによる素手とナイフを使った一騎打ちは、物哀しいアリアをBGMに迫力満点で、なかなかに見応えのあるものだった。また、ヤン艦隊が住処であるイゼルローンを放棄する際に行われた“イゼルローンお別れパーティ”では、フレデリカ役のはねゆりがバレエを、アッテンボローの横尾渉、コールドウェルの真田佑馬、シュナイダーの野澤祐樹がダンスを披露。遂にはメルカッツ提督の渡辺裕之までが綱渡りに挑戦してみせたが、そうしてお祭り騒ぎの度が上がれば上がるほど、一幕のラストで我が家・イゼルローンを見遣る人々の姿が切なく、人の世の儚さを示してみせた。



 その他、第三の勢力・フェザーン自治領では、帝国の同盟侵攻に乗じて父親である自治領主ルビンスキー(増澤ノゾム)に取って替わろうとした補佐官ケッセルリンク(三上俊)が、返り討ちされて父に謀殺されるという悲劇も。謎めいた妖しさを漂わせる三上が野心を剥き出しにすればするほど、増澤の血を分けた息子にも容赦しない冷たさが際立って、あまりにも哀しく映った。また、政治家のエゴイズムを厭らしく表したトリューニヒト役・井田國彦や、ヤンの良き補佐役を全うしたキャゼルヌ役・天宮良等、常連組の手堅い安定感はシリーズ物として3年もの歴史を重ねてきた賜物だろう。一方、堅苦しい物言いでイメージを覆す気難しい軍人ぶりを見せたムライ役・IZAMに、バンドで鍛えた喉で少年らしさを快活に魅せたHARUNA等、初参加のメンバーも好演。キャストが突如客席に現れたり、黒子が舞台を懐中電灯で照らす等の前衛的な演出に、トラスと階段が張り巡らされた舞台が盆で回転する毎に陣営を変える、ダイナミックにしてシンプルなステージセットも十分に目を楽しませてくれた。

 何より特筆すべきが、実は本作自体がヤンの幕僚であるアッテンボローの回想という形が取られていること。そのためアッテンボロー役の横尾が、作中とは切り離された“語り手”として登場する場面も幾度かあった。そもそも彼はジャーナリスト志望であり、原作でも回想録のためのノートを取っているとの記述があるため、このアイディアは斬新かつ実に納得のいくもの。そして彼の手により、ヤンがラインハルトを仕留める寸前まで勝利を手中にしながらも、首都・ハイネセンを帝国軍の別働隊に制圧された同盟政府の通達によって、停戦することとなった戦闘の結末が語られたのであった。

「政府の命令なんて無視して、全面攻撃を命令なさい! そうすれば貴方は3つのものを手に入れられる。ラインハルト公の命と、この宇宙と、未来の歴史と……!」

 シェーンコップがヤンに放った台詞は、恐らく誰もが頷きたくなるものだろう。しかし、そこでヤンが返した「その策もあるな。だけど私には大きすぎる。重すぎるんだ……!」という言葉こそヤンがヤンである所以であり、自分自身をも例外なく冷静すぎるほど冷静に捉えることのできる客観性こそが、30年以上にわたり多くの人々を虜にしてきたヤンという人物の魅力なのである。一方、ラインハルトは敗北者となることも許されず、宇宙を治めるという重責を背負わされことに。果たして、どちらが本当の勝者なのか――? オーベルシュタインの言を借りるなら、それは「勝利か敗北か。それは歴史が決める」ということなのだろう。

 そして停戦に合意したヤンとラインハルトは、遂に10作目にして初の対面。脚を組んで傲然とした佇まいのラインハルトに、背筋を伸ばしたヤンという構図は、新たにローエングラム朝を開くこととなる帝国と、最終的に滅亡への道を辿っていった同盟の未来を暗示しているようでもあった。が、よくよく見るとラインハルトが座っている肘掛椅子は赤、ヤンのソファは青と、先程までの戦闘で照明が表していた両軍のカラーとは逆のもの。それが「一つの正義に対して、逆の方向に同じような正義が存在するのではないか」というヤンの台詞と相まって、人の世の移ろいやすさと絶対的善悪の不存在を訴えているように思えた。だからこそ、士官の誘いを断って「退役する」と告げたヤンに、ラインハルトも「違う時代に生きていれば、卿とは友人になれたかもしれぬ」と答えたのだろう。
 二人が初めて交戦した際に送った通信文「再戦の日まで壮健なれ」に倣って、会談の最後に「再会の日まで壮健なれ」とヤンに贈ったラインハルトと、そう言って立ち去る彼を敬礼で見送ったヤン――。別々の道を歩み、宿敵として戦いながらも、どこかで重なっている二人の束の間の邂逅は、シリーズの切れを飾るに相応しい感動に満ちていた。

 人生に絶対などなく、ほんの些細なことで立場を、形を、結果を変える。だからこそ今、この瞬間を、目に映るものを、出会えた誰かを慈しむことに、生きる歓びはあるのではないだろうか? カーテンコールで勢揃いしたキャスト陣によるテーマ曲「Searching for the light」を聴きながら、そんな想いが頭を過った。数千年後の未来を舞台にすることで、幾星霜の時が流れようとも変わることのない普遍の人間真理を、生身の人間による体当たりの演技で描いた舞台「銀河英雄伝説」。その歴史は一旦ここで閉じられるが、初日の終演後には21世紀では初となる原作小説の再アニメ化も発表された。あまりにも奥深く、壮大な物語ゆえに、観るたびに新たな発見をもたらしてくれる本作が時代を越えて受け継がれ、より多くの人々の人生を豊かにしてくれることを願ってやまない。
(取材・文/清水素子)

【NEWS!!】
舞台「銀河英雄伝説 第四章 前篇 激突前夜」DVD
3月19日リリース決定!


XNKE-50009 \5,800(税込)
※4月1日以降の消費増税による価格改定については、
 キティウェブショップにてご確認ください。

【問い合わせ】
株式会社キティエンターテインメント 03-6451-0841(平日11:00~18:00)


舞台化に続き、新たな幕が上がる…
「銀河英雄伝説 アニメ化プロジェクト」始動!!

続報をお楽しみに!